ラウンジチェア

現代北欧家具の傑作 December Chair(ディッセンバーチェア)

家具デザイナーをしていると、おのずと多くの家具を知ることになりますが、

たまに、

「この椅子は50年後も名作として残るだろうな」

と思う椅子に出会うことがあります。

一年を締めくくる12月の名前を付けられたこの椅子は、

何年経っても色褪せることなく、名作として使われ続けるのだろうなと思います。

今回紹介するのはフィンランドの家具メーカー、

NIKARI(ニカリ)のディッセンバーチェアです。

ディッセンバーチェアのデザイン


ディッセンバーチェアは無垢材を組み合わせたフレームに、

張地をテンションをかけて張ることで、ハンモックのような座り心地を実現しています。

一見簡素に見える構造ですが、背面も座面も薄くとても軽やかで、

空間を圧迫せず、インテリアにとても馴染みます。

フレームの組み方も独特で、座枠は前後と左右が一段ずれて重なる形で接合され、

そのずれによって座面は宙に浮き、見た目の軽やかさと共に、

座枠が腿裏に当たらないので、座り心地が格段によくなっているのです。

また、座枠の重なった部分に前足を差し込むことで、

必然的に深く前脚が差し込まれ固定されるので強度が高まり、

前脚に補強の貫がなく、すっきりとした見た目となっています。

座枠は重なる形なので当然、平べったい形が最適です。

座枠が平べったい形になることで、丸い後脚は座枠を貫く形で接合され、

そのまま背柱に差し込まれることで、三角形のトラス構造を形作り、

これまた補強なしで十分な強度を得ると同時に、特徴的な形でアクセントとなっています。

機能が形を生み、その形が機能を生む。必然の連鎖によって全体が作り上げられる。

いいデザインとはまさにこういうことなのです。

まいん
まいん
ディッセンバーチェアのデザインは一見何も特別なことはしていないように見えます。

ただ素材に対して丁寧に、構造、プロポーション、ディテールを重ねていく、

家具デザインはそれだけでいいということを教えてくれます。

そして、そんな家具デザインの基本を突き詰めるだけで、

これだけの傑作ができるという事実に、我々家具デザイナーは勇気をもらえるのです。

ディッセンバーチェアのブランドは?


ディッセンバーチェアはフィンランドの家具メーカーNIKARIの製品です。

NIKARI(ニカリ)は1967年に若干19歳の木工職人カリ・ヴィルタネンによって始められた小さなアトリエでしたが、設立後間もなくアルヴァ・アアルト設計事務所からアアルト・センターのプロジェクトを任されます。図書館の家具から劇場の音響壁まであらゆる分野の制作に約7年間にわたって携りました。そして交流のあったカイ・フランクからプロダクトデザインの手解きを受けたことにより、自らデザインを手掛けた家具を発表します。現在もヘルシンキ現代美術館の為にデザインされたKV Seminar Seriesなど彼の生み出した多くの作品が残っています。フィンランド国内を中心に展開をしていたNIKARIは、カリ・ヴィルタネンの代表引退と共に大きく変化します。2012年の世界各国デザイナーと商品開発した「12DESIGNERS FOR NATURE」が国際的な評価をうけて初の世界見本市に出展。英雑誌「Monocle」とのコラボ レーションなど、世界でも注目されるブランドへと成長しました。日本でも表参道のIittala Caffeに採用されるなど、今後の展開が期待されます。また、NIKARIの多くの製品は本社のあるフィスカースの森の木を中心に制作され、それと同時に森を守るための植林活動も行っています。本社の動力は隣の川の活用した水力発電を活用しており、サスティナビリティに取り組む企業としても注目を浴びています。

引用:https://www.sempre.jp/item/983003/

ディッセンバーチェアは上記の、2012年の世界各国デザイナーと商品開発した、

「12DESIGNERS FOR NATURE」で発表された椅子です。

「12DESIGNERS FOR NATURE」では12組のデザイナーが、

それぞれ各月の名前で作品を発表し、

12月の名が与えられたのがこのディッセンバーチェアなのです。

まいん
まいん
NIKARIの木工技術の高さは業界では有名で、

世界トップクラスの技術を持っていると言われています。

そんな高い木工技術を有しながらも、

NIKARIの製品ラインナップは一見ごくシンプルな家具ばかりです。

しかしよく見ると細部の精度が尋常ではないクオリティを持っており、

どれだけ画像を拡大しても粗が見えません。

このクオリティを量産しているいうと想像を絶しますが、

同時にやはりシンプルな家具ほど細部の精度の高さがものをいうことがよくわかります。

ディッセンバーチェアのデザイナーは?

↑※秋篠宮ご夫妻もフィンランドを訪問中にディッセンバーチェアに座られた。(熊野亘氏のインスタより)

ディッセンバーチェアは、イギリスのデザイナー、ジャスパー・モリソンと

そのアシスタントを務めている熊野亘氏の連名でデザインされました。

ジャスパー・モリソンは、見た目は一見普通ですが、

癖が無く使いやすい絶妙なデザインを数多く残しており、

いい意味で普通のプロダクトこそが最もデザインとして優れているという

「スーパーノーマル」というデザインの考え方を掲げています。

ジャスパー・モリソンは世界中のブランドから数多くの製品を発表しており、

その製品は日常の暮らしの中で使いやすいだけでなく、

ニューヨーク近代美術館や世界の著名な美術館に収蔵されています。

熊野亘氏はヘルシンキ芸術大学(現アアルト大学)大学院を修了後、

2008年よりジャスパー・モリソンの日本事務所にてデザイナーを務める傍ら、

11年に自身のデザインオフィス“kumano”を設立し、

木工デザインを中心に、インテリア、家具、プロダクトデザインや

プロジェクトマネージメントを手掛けています。

19年には資生堂のオーガニックコスメ“BAUM”のパッケージを手掛け、

家具製造の端材を大胆に活用したデザインで話題になりました。

まいん
まいん
ジャスパー・モリソンについては以前紹介しましたが、

熊野亘氏のデザインもとにかくバランスがよく美しいプロポーションを持っています。

日本人のデザイナーの中でも今最も注目すべき一人です。

ディッセンバーチェアに合わせるアイテム


ディッセンバーチェアには合わせるアイテムとして、

ディッセンバーオットマンも発売されています。

チェアの座面と同じく、ずれて重ねられた座枠に脚を差し込み、

張地をテンションをかけてはめ込むという構造で作られています。

ディッセンバーチェアと合わせて使うと、

足を伸ばせて格段にくつろぐことができるのでおすすめです。

まいん
まいん
ディッセンバーチェア自体が明快な構造を持っているので、

それを応用してつくられたオットマンも、

構造が際立ってとても美しいデザインとなっています。

ディッセンバーチェアと比較するアイテム


ディッセンバーチェアと比較するアイテムとしては、

まずディッセンバーラウンジチェアがあります。

こちらはディッセンバーチェアにアームを足したデザインになっており、

肘をついてくつろぐことができます。

ただその分サイズ感は大きくなるので、好みで選ばれればよいと思います。

そして他に比較対象としては、おそらくディッセンバーチェアの原型となっている、

トライアングルチェアがあります。

現在はステラワークスという上海のブランドから復刻されていますが、

元は1952年にヴィルヘルム・ウォラートというデザイナーにより、

デンマークのフムルベックにあるルイジアナ近代美術館に合わせてデザインされました。

大きな違いはトライアングルチェアは強度補填のために、

脚部の間に2本ずつ貫が通してあります。

構造的にもプロポーション的にはおそらくディッセンバーチェアは、

このトライアングルチェアを参照されたと思われますが、

ディッセンバーチェアのほうがすっきりとしながら安定感を感じるデザインなので、

おすすめです。

まいん
まいん
個人的にはトライアングルチェアよりも、

圧倒的にディッセンバーチェアの方が名作だと思います。

脚部の強度という椅子デザインの肝と言える部分を、

木工的なアイデアで鮮やかに解決しているからです。

時にミッドセンチュリー期のデザインは「超えられない壁」として

現代デザイナーの前に立ちはだかりますが、

ジャスパー・モリソンと熊野亘両名は、正統的なデザインで真正面から超えていきました。

まとめ

いろいろな名作があるラウンジチェアの中で、1脚選べと言われたら、

私はこのディッセンバーチェアを選ぶと断言できます。

絶対に飽きのこない完成されたデザインなので、

今のうちに手に入れて、永く大事に使い続けていきたいものです。