ダイニングチェア

ハンス・J・ウェグナーの傑作「ザ・チェア」とは?

ハンス・J・ウェグナーの椅子の中でもYチェアに次いで有名なのが、

PP503「ザ・チェア」です。

ウェグナーの家具を多数製造するPPモブラーから発売されており、

高級椅子として世界中で憧れの的となっています。

今回はそんなザ・チェアを簡単に紹介します。

ザ・チェア(PP503)とは?

なぜこの椅子が「ザ・チェア」と呼ばれているのでしょうか。

それは「椅子の中の椅子」と言う意味で「ザ・チェア」と呼ばれているのです。

椅子の行きつく先、椅子の究極系、、、

何でも突き詰めると削ぎ落したシンプルな形になっていくものです。

しかし1950年の発表当初はあまりにシンプルなデザインのため、

「みにくいアヒルの子」のようだと酷評され、実は全く売れませんでした。

シンプルなのに権威のある椅子

そんな散々な発表から10年後、PP503の人気はアメリカから火が付きます。

なんとアメリカ大統領選において、

ジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンのテレビ討論会で使用されたのです。

このテレビ討論会で若いケネディがニクソンにディベートで圧勝し、

選挙の流れを変えたと言われています。

そしてPP503も「ケネディ大統領が座った椅子」として、

一気に憧れの椅子となっていったのです。

現在でも2009年の、

バラク・オバマ元大統領とロシアのドミートリー・メドヴェージェフ首相との会談や、

デンマーク王室やEU各国の公的な会談や式典などでよく使用されています。

これだけモダンに洗練されたシンプルなデザインでありながら、

公の場でも見劣りしない風格を備える稀有な椅子がこのPP503「ザ・チェア」なのです。

ウェグナーのデザインの中でも最もシンプルといっていいこの椅子は、

発表当時の家具デザインの中では先を行き過ぎていて(モダンすぎて)、

最初に酷評されたのだろうなと想像がつきます。

つまり、10年経って時代がPP503にやっと追いついたということです。

ザ・チェア(PP503)のデザインの凄さとは?

ただ形状的に削ぎ落して洗練させるだけでなく、

座り心地も極上でなければ「椅子の中の椅子」とは言えません。

シンプルに洗練させればさせるほど、座り心地は犠牲になっていき、

この二つを高いバランスで両立させるのはとても難しいのです。

椅子のデザインのおける永遠の問いに、

ウェグナーは一つの形状を研ぎ澄ますことで答えを出しました。

その形状とは、ホースシュー(馬蹄)と呼ばれる、

流れるように一体化したアームと背もたれの形状です。

PP503のデザインの最大のポイントと言えるでしょう。

ホースシュー型のアームと背もたれ

通常のアームチェアのデザインだと、当然アームと背もたれが別々にありますが、

アームと背もたれを一体化させてホースシュー型にすることにより、

通常のアームチェアより要素が一つ少なくなり、

よりシンプルで洗練された印象になるのです。

すべてのデザインは基本的に分節(パーツの分かれ目)が減れば減るほど抽象化され、

洗練されたモダンな印象となっていきます。

またホースシュー型は見た目に洗練されるだけでなく、

アームと背もたれが流れるようにつながることで身体を包み込んで支えることができます。

PP503はくつろいで座れるように座面の奥行も傾斜も大きく設計されており、

数々の各国要人が座ってきたことからもわかる通り、その座り心地も折り紙付きなのです。

アームと背もたれはフィンガージョイントという、

木材を噛み合わせる接合方法で接合されています。

この方法は噛み合わせることで接合部の強度を確保するだけでなく、

木材を接合してから削り出すことができるので、

一つの木材からでは削り出せない大きく湾曲したパーツを作るのによく使われます。

見た目においても接合部分に現れるギザギザがデザイン上のアクセントにもなっています。

ウェグナーはこのフィンガージョイントのギザギザを気に入らなかったと言われており、

徹底的にこの椅子をシンプルにしようとしていたことが伺えます。

ザ・チェア(PP503)に似た椅子

PP503以降、数多くのホースシュー型の椅子が生み出されてきました。

PP503はホースシュー型の元祖と言えるのです。

ホースシュー型の椅子はふんだんに材料を使うため、価格が高いものも多いですが、

通常の椅子を置くよりも、インテリアにモダンさと高級感が出せるので、

インテリアを簡単にそれなりに見せたい人にもおすすめです。

日本のメーカー各社からも発売されているので、

今回はその中からおすすめを数点紹介します。

HIROSHIMA アームチェア / マルニ木工

まずは、もはや現代のザ・チェアと言ってもいいでしょう、

マルニ木工のHIROSHIMAアームチェアです。

HIROSHIMAは、モダンで洗練されたPP503に比べ、

あえて背もたれやアームに幅や丸みを持たせることで、

少しまろやかで優しいデザインとなっています。

HIROSHIMAアームチェアも世界的な評価を得てきており、

ザ・チェア同様に椅子の歴史に確実に名を残す傑作ですが、

価格はザ・チェアの4分の1以下となっており、非常におすすめです。

hataチェア / 宮崎椅子製作所

次に紹介するのは宮崎椅子製作所のhataチェアです。

その名の通り、はためくような背もたれのデザインが非常に軽やかで、

PP503よりカジュアルに使うことができます。

最大の特徴はそのサイズ感で、PP503が横幅63cmに対し、

hataチェアの横幅は51cmとホースシュー型の椅子としては非常にコンパクトで、

日本の住宅事情によくマッチしています。

テン ダイニング アームチェア / カンディハウス

最後に紹介するのはカンディハウスのテン ダイニング アームチェアです。

この椅子はアームから背もたれの部分を素材を変えて張り分けたデザインとなっています。

とても薄い形状の背もたれで、張っても野暮ったくならず、

スタイリッシュな印象の椅子であり、PP503とは全く異なる雰囲気を持っています。

背に独特の弾力があり、シャープな見た目に反して、座り心地も良いです。

 

以上の椅子全てでPP503と大きく異なっているところは、

座面が座枠の上に乗っている点です。

座枠が見えなくなるため、より軽やかにカジュアルになり、

ダイニングチェアとして使いやすくなっています。

対してPP503は座面の周りを座枠が囲っており、

重厚感や高級感が増しているので、公の場でも映える椅子となったのです。

背の形状の違いに目が行きがちですが、椅子の雰囲気を決めるのは、

意外とこういったポイントだったりします。

最後に

椅子の中の椅子、PP503「ザ・チェア」は

決して手に入れやすい価格の椅子ではありませんが、

他の椅子にはない歴史と風格を持った、特別な椅子です。

ぜひこの特別な椅子を、数代にわたって受け継いでいくつもりで、

手に入れてみてはどうでしょうか。