家具好きな人に「椅子の神様」は誰かと聞いたら、
ほとんどの人が彼の名を挙げることでしょう。
ハンス・J・ウェグナー、北欧モダンデザインの礎を築いた、
デンマークを代表する家具デザイナーです。
ウェグナーのデザインした家具は、日本国内でも圧倒的な人気を誇り、
ビンテージのコレクターも数知れません。
今回は、今買えるウェグナーのデザインしたダイニングチェアの中から、
おすすめを選んでみました。
ダイニングチェアは、食事をとるための椅子ですが、くつろいだり、
現代ではリモートワークで作業したりと、幅広い用途で使われます。
また、家族の人数に合わせて複数個置かれるので、その印象は大きく、
インテリアの中でも重要なアイテムと言えます。
そんなダイニングチェアだからこそ、
「椅子の神様」ハンス・J・ウェグナーのデザインで揃えてみるのはいかがでしょうか。
ハンス・J・ウェグナーとは

ハンス・J・ウェグナーは、
1914年デンマークのユトランド半島出身の家具デザイナーです。
1984年に家具分野における偉大な功績が認められ、
デンマーク女王よりナイトの称号を授かりました。
2007年、92歳で惜しまれながらこの世を去りましたが、
未だに家具デザイナーの名前を一人だけ挙げろと言われたら、
彼の名を挙げる人が多いでしょう。
ウェグナーはなんと13歳の時から木工職人の元で修行を開始し、
17歳の時には木工のマイスター資格を取得したそうです。
現代の多くのデザイナーが木工の経験のないまま
建築やデザインを学んで家具デザイナーになるのに対し、
ウェグナーのキャリアのスタートは木工職人だったのです。
椅子を設計する際のウェグナーのデザインポリシーは、
第一に「座りやすさ」
第二に「クラフトマンシップ」
第三に「デザインの美しさ」
だったそうです。
デザイン性よりも機能性や生産性を重視したところは、
家具職人出身のウェグナーらしい考え方といえます。
しかし結果としてデザイン的にとても美しい椅子に仕上げてくるところが、
ウェグナーのデザイナーとしての凄さであります。
写真で見てわかる造形も含め、ウェグナーのデザインは決してシンプルではありません。
実物はさらに、図面でも表しきれない線で多くの椅子が出来上がっています。
おそらく各メーカーの職人と多くの対話を繰り返して作り上げていったのでしょう。
デザイナーと職人による理想的な仕事の結果が、以下に紹介する名作たちを生んだのです。
ハンス・J・ウェグナーのおすすめダイニングチェア
ハンス・J・ウェグナーデザインのダイニングチェアのおすすめを4つ選びました。
ウェグナーの椅子は名作ばかりなので、選ぶのにとても苦労しましたが、
現代でも使いやすい、「シンプルだけど他とは違うデザイン」という観点から、
以下の4つを紹介しようと思います。
CH24(Y CHAIR) / Carl Hansen & Son

まず一脚目、これを選ばない人はいないでしょう、説明不要の傑作、Yチェアです。
おそらくウェグナーのデザインでくくらなくても、
世界中の全ての椅子の中から4点選んでも選ばれるであろう名作中の名作です。
CH24(Y CHAIR)のデザインのポイント

Yチェアのデザインの魅力は、一つ一つの凝った形状の部材が、
シンプルに明快に組み合わせられているところにあります。
特徴的なY字の背板やうねるような形の背柱、
笠木には背の当たる面に面取りが施され、前後の貫は板形状ですが、
左右の貫は棒形状になっています。
しかしこれだけ部材の形状に凝っているのに、
組み方はとてもシンプルで無駄がありません。
モダンでシンプルな構造と手の込んだクラフト感のある部材形状。
モダンさとクラフト感、両方の性質をもちあわせているので、
Yチェアはどんなインテリアにもマッチします。
Yチェアのデザインの元は中国の明代の椅子であり、
日本を含めアジア諸国での人気が高いのも頷けます。
Yチェアの情報はこちら↓
CH33P / Carl Hansen & Son

CH33Pは1957年にデザインされた、
Yチェアと同じくカールハンセン&サンの木製椅子です。
発表から10年間生産されその後廃盤となっていましたが、
2012年、再び復刻されました。
CH33Pのデザインのポイント

ひし形の背板と座面のカーブが呼応して見えるのが目を引きます。
このカーブした成形合板の背と座を木製のフレームに乗せる形式の椅子は
日本の飲食店でもよく使われますが、
CH33Pの方が圧倒的によく見えるポイントは、
左右を繋ぐ座枠が座面に接しておらず、下がった位置にあるところです。
これによって座面の下がぱっくり空いて、とても軽快な印象になります。
通常は座面の真下に座枠を作り、内側を見えなくして、
隅木と呼ばれる強度補填のためのブロックをつけますが、
そうするとどうしても野暮ったい印象になります。
じゃあそんな造りにしなければいいと思われるかもしれませんが、
そうでもしないと、安い人件費で作られた椅子は強度が保てません。
Yチェアもそうですが、
見えないところ、隠すところを無くした「透明」な構造で
椅子として必要十分な強度を保てるのは、職人の技術力あってのことなのです。
CH33PとCH30P
同様の構造の椅子としてCH30Pが先に生み出されており、
よりベーシックで主張しない椅子となっています。
デザインの洗練度としては後発のCH33Pの方が上ですが、
同じカールハンセン&サン製で価格もあまり差が無いので、
お好みで選ばれることをおすすめします。
PP701 / PP mobler

PPモブラーのPP701はウェグナーが妻のためにデザインした椅子であり、
実際に自邸で使われていた椅子です。
完全に個人的な椅子だったため、当初商品化される予定はなかったそうですが、
ウェグナーのデザインの中でも圧倒的なデザインの完成度を誇っています。
個人的にはハンス・J・ウェグナーの最高傑作だと思っています。
PP701のデザインのポイント

最大の特徴はその笠木(細長い背もたれ)でしよう。
3次元的な曲面で流れるように作られた圧倒的なプロポーションの笠木は、
「世界一美しい笠木」といっても過言ではありません。
脚部が細くシンプルなステンレススチールなのも
この笠木の美しさを邪魔せずに際立たせています。

この笠木は上下左右4つのパーツを組み合わせて作られており、
その接着の強度を高めるために、真ん中に十字型のちぎりを入れています。
さらに上下の間に薄くスライスした木材を緩衝材のように挟んだラインを入れていますが
このラインが入ることで、上下のパーツの木目の違いを目立たなくすることができます。
装飾に見える部分にも機能的な理由があるのも、この笠木の良さに繋がっているのです。
PP701とCH88

PP701のような笠木はカウホーン(牛の角)と呼ばれ、
突き出た部分がハーフサイズのアームにもなり、
少し肘を置くには都合がいいです。
ただし背の当たる位置は低く狭いので、くつろぐためというより、
食事したり、作業したりするのに向いています。
カールハンセン&サンにCH88という椅子もあります。
こちらは背の笠木が小ぶりになって場所を取らず、脚のカラーも選べます。
その分PP701ほどの迫力はありませんが、
価格もPP701の約半分なので、予算次第ではこちらにしてもいいと思います。
PP503(THE CHAIR) / PP mobler

最後に紹介するのはPP503「ザ・チェア」です。
なぜこの椅子が「ザ・チェア」と呼ばれているのかというと、
「椅子の中の椅子」と言う意味からザ・チェアと呼ばれています。
しかし1950年の発表当初はあまりにシンプルすぎるデザインのため、
「みにくいアヒルの子」のようだと酷評され、全く売れませんでした。
しかしその10年後のアメリカ大統領選にて、
ジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンのテレビ討論会で使用され、
世界中の憧れの椅子となりました。

PP503のデザインのポイント

PP503のデザインの最大のポイントは、ホースシュー(馬蹄)型と呼ばれる、
流れるように一体化したアームと背もたれの形状にあります。
通常のアームチェアのデザインだと、背もたれとアームが分かれているので、
通常のアームチェアより一つ要素が少なく感じるのです。
基本的に、分節(パーツの分かれ目)が減れば減るほど、物として抽象化され、
シンプルで洗練された印象となっていきます。
ウェグナーのデザインの中でも最もシンプルといっていいこの椅子は、
当時の家具デザインの中で先を行き過ぎていて、
最初に酷評されたのだろうなと想像がつきます。
アームと背もたれはフィンガージョイントという木材を噛み合わせる接合方法を用いて、
接合されています。この方法は木材を接合してから削り出せるので、
大きく湾曲したパーツを作り出すのによく使われ、
噛み合わせ部分に現れるギザギザがアクセントにもなっています。
PP503とHIROSHIMA

日本が誇る、マルニ木工のHIROSHIMAも
間違いなくPP503のデザインを参照しています。
HIROSHIMAは、モダンで洗練されたPP503に比べ、
あえて背もたれやアームに幅や丸みを持たせることで、
少しまろやかで優しいデザインとなっています。

HIROSHIMAも椅子の歴史に確実に名を残す名作なので、
お好きな方を選ばれることをおすすめします。
HIROSHIMA以外でも、
アームと背もたれが一体化したホースシュー型の椅子は、
全てPP503の影響を受けているといっても過言では無いでしょう。
そういった意味でもまさしくpp503は「椅子の中の椅子」ザ・チェアなのです。
まとめ
今回はハンス・J・ウェグナーのデザインしたダイニングチェアの中から、
CH24、CH33P、PP701、PP503と、
現代でも使いやすいデザインを4点選んでみました。
ウェグナーのデザインした椅子はどれも名作ばかりなので、
本当にお気に入りの一脚を見つけてもらえればと思います。
是非、ウェグナーのデザインした極上の椅子を味わってみてください。